刑事事件




ある日電車に乗っていたら、突然前に立っていた女性に「この人痴漢です!」と手をつかまれ、何がなんだかわからないうちに、全く身に覚えのない罪で逮捕されてしまったり、家族が喧嘩や万引きをして逮捕されたり、普通に生活していても、思わぬところで刑事事件に巻き込まれる可能性はあります。
また身近なところでも犯罪となる行為があります。
ここでは、刑事手続における「逮捕」の内容と、逮捕された場合に大切なこと、取り調べ、捜査方法などをご紹介します。

刑事手続における「逮捕」と逮捕されたときに大切なこと

逮捕とは?

逮捕とは、被疑者(容疑者)に対して行われる強制的な身体的拘束であり、法で定められた短時間の留置(最大72時間)を伴うものです。

逮捕の種類

通常逮捕

被疑者に罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合に、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により逮捕すること。
逮捕権者は検察官・司法警察員・検察事務官・司法巡査です。

現行犯逮捕

現に罪を行っている者または現に罪を行い終わった者(現行犯人) を逮捕状なくして逮捕すること。
現行犯逮捕の場合は、誰でも逮捕することができますが、逮捕権者以外の人が逮捕した場合は直ちに検察官 または司法警察職員に引き渡さなくてはなりません。

現行犯逮捕の要件
  • 逮捕は犯行現場やその延長とみられる場所で行われること
  • 逮捕の時点で犯人であることが明白であること
  • 逮捕する者が被逮捕者の犯行を現に見た者か、その代行者であること
  • 逮捕の必要があること

準現行犯逮捕

現行犯人でなくても、以下のような状況のいずれかにあたる者が、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる場合(この者を準現行犯人とよぶ)には、現行犯人とみなし、同様に逮捕状なく逮捕できます。

準現行犯逮捕の要件
  • 犯人と呼ばれ追われている場合
  • 窃盗などにより得た物または明らかに犯罪に使ったと思われる凶器その他の物を所持している場合
  • 身体または被服に犯罪の顕著な証跡がある場合
  • 誰だと聞かれて逃走しようとした場合

緊急逮捕

死刑または無期もしくは長期(法定刑の上限)3年以上の懲役もしくは禁錮に該当する罪を犯したと疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができない場合に、その理由を告げて検察官、検察事務官または司法警察職員が被疑者を逮捕すること。
緊急逮捕した場合は、逮捕後直ちに逮捕状を請求する必要があります。
もし逮捕状が裁判官より発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなくてはなりません。

緊急逮捕の要件
  • 重大な犯罪であること
  • 高度な嫌疑があること
  • 逮捕の緊急性があること
  • 逮捕後直ちに逮捕状を請求すること

逮捕されたときに大切なこと(黙秘権・接見交通権)

黙秘権とは?

自己に不利益な供述を強要されない権利をいいます。
これは、自分にとって不利益になる事実(有罪判決の起訴になりそうな事実や刑が重くなりそうな事実など)を述べなくてよいという権利で、憲法と刑事訴訟法によって、被疑者・被告人(起訴された人)・証人に対して保障されています。
この権利は、刑事手続の中で弁護人との接見交通権(次項目参照)と並んで最も重要な権利です。

弁護士との接見交通権

接見交通権とは、身体を拘束されている被疑者や被告人が、外部の人と面会する権利をいいます。
中でも、弁護人との接見交通は立会人抜きでできるもので、被疑者や被告人にとってもっとも重要な権利といえます。
もっとも、この権利にも一定の制限はあり、捜査のために必要があるときは被疑者と弁護人の接見に関し、その日時・場所・時間を指定することができるとされています。

逮捕された場合、弁護士とどうやって連絡をとればいいの?

被疑者がいったん供述調書に署名してしまうと、後の裁判でその内容を覆すことは難しくなるのが現状なので、本来、弁護士が最も必要とされるのは、被疑者として逮捕されて取調べを受け、供述調書を作成する時点といえます。
その場合に弁護士の当てがないとしても、「当番弁護士」という制度を利用することができます。
これは、全国の弁護士会に「当番弁護士」として登録されている弁護士が、逮捕された被疑者や被告人からの依頼に応じて接見に行き、その一回は無料で相談に応じるという制度です。  
被疑者にとってはこの当番弁護士の制度はとても重要なものといえます。
当番弁護士を依頼する場合は、捜査官にその旨を伝えればよく、また、被疑者の家族から依頼することもできます。  
当番弁護士と接見した結果、そのまま私選弁護人として事件を受任してもらうことも可能です。

取り調べや捜査方法

取調べとは?

警察官や検察官などの捜査機関が、被疑者(犯罪の嫌疑を受け、いまだ公訴提起されていないもの)や参考人(被害者、目撃者など)に質問をし、供述を得る行為をいいます。

通常逮被疑者が拘束されていない場合の取調べ

被疑者が逮捕される前の段階で取調べが必要な場合は、捜査官は被疑者に対して任意出頭を求めることになります。
任意出頭を求められた被疑者は、その出頭を拒み、または出頭後いつでも退去することができるが(刑事訴訟法199条)、正当な理由もなく出頭しない場合は逮捕されることもありえます。

被疑者が拘束されている場合の取調べ

この場合は任意出頭の場合と異なり、被疑者には取調べ受忍義務があり、被疑者は出頭を拒めず、また勝手に退去することが許されないとされています。

取調べに際して

被疑者の取調べに際しては、捜査官により黙秘権の告知がなされなくてはならないとされています。(刑事訴訟法198条2項)

供述調書の作成

捜査官は、被疑者を取り調べた際、一般に供述調書を作成します。

供述調書の内容

氏名、住所、生年月日など
前科の有無など
犯罪事実の内容(①誰が②いつ③どこで④何を⑤どんな方法で⑥なぜ⑦誰と⑧どんな行為を行ったか)

自白の任意性

自己の犯罪事実の全部または重要な部分を認める供述を自白といいますが、これは被疑者によって任意にされたものでなくではなりません。
たとえば、捜査官に脅されてした自白や、交換条件付きでした自白などは任意性がないとされ、その自白は証拠能力が否定されます。

証拠能力が否定されると…

証拠能力が否定されると、たとえ被告人(起訴されると被疑者は被告人とよばれます)が証拠とすることに同意したとしても、裁判において証拠として利用できなくなります。(刑事訴訟法319条1項)

自白の補強証拠

自白があっても、その自白以外の他の証拠(補強証拠)がない場合は、裁判官がたとえその自白により有罪だという心証を得たとしても、被告人を有罪にすることはできません。  
補強証拠は、本人の自白以外の証拠であればよく、たとえば、共犯者や共同被告人の供述も補強証拠となりうるとされています。 (刑事訴訟法319条2項)

捜索・押収・検証とは?

捜索

一定の場所・物又は人の身体について、物又は人の発見を目的として行われる強制処分。

押収

裁判所又は捜査機関が、証拠物又は没収すべき物の占有を取得する強制処分。

差押え

物の占有を強制的に取得する処分。

領地

遺留品や任意に提出されたものの占有を取得する処分。

提出命令

差押えの対象となる物を指定し、所有者等にその物の提出を命ずる裁判。

検証

場所、物または人の身体の状態を、五官の作用によって認識する強制処分。
例)殺害現場における被害者の傷跡、凶器となったものなどを目で見て認識する。
これと同じ内容のことを任意処分として行うことは、実況見分といわれます。
これらの強制処分を行うには、裁判官の発する令状が必要となります。(刑事訴訟法218条)

違法な捜査を予防・救済するための手段

逮捕や捜索に令状を必要とする令状主義

逮捕・捜索・差押え・検証などを行うには、原則として、あらかじめ裁判官の発する令状が必要です。(刑事訴訟法218条)

捜査、差押えなどの場合の責任者などの立会い

人の住居などで捜査、差押え等をする場合は、住居主またはその代理となる者を立ちあわせる必要があります。(刑事訴訟法114条2項)

捜査官の暴行等に対する職権濫用罪の成立

警察官、検察官など捜査官が暴行を働いた場合は、被害者やその法定代理人(親権者等)は告訴でき(刑事訴訟法230・231条)、その他の者は告発をすることができます。(刑事訴訟法239条1項)

付審判請求の手続き(準起訴手続)

捜査官による職権濫用罪等が不起訴になった場合、それに不服があれば、事件を裁判所の審判に付することを請求することができます(刑事訴訟法262条)。
そして、検察官はこの請求を理由のあるものと認めたときは公訴を提起しなくてはなりません。(刑事訴訟法264条)

違法収集証拠排除の法則

必要な令状がない状態で証拠が収集される等、証拠収集手続が違法である場合には、その証拠の証拠能力を否定し、事実認定の資料から排除されるということが認められています。

準抗告の手続(不服申立制度)

裁判官の下した裁判、または検察官ら捜査官のした処分等に対して不服がある場合、裁判所にその取消しまたは変更を請求することができます。(刑事訴訟法429条・430条)

国家賠償請求

国または公共団体の公権力の行使にあたる公務員が行った違法行為によって、害を被った場合には、国または公共団体に対して損害賠償請求ができます。(国家賠償法1条)


神奈川県弁護士会・港都綜合法律事務所